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タシの心霊体験談

第1回 事故物件と実家からの電話 -中編- 体験者:湯原紗理奈さん 32歳
東京都文京区 会社事務職

XXX

最初の異変に気づいたのは、引っ越しからちょうど1ヶ月後の深夜です。

その晩は久しぶりに大学時代のサークル仲間と会い、午後11時過ぎまで居酒屋にいました。帰宅したのは日付が変わった頃でしょうか。かなりお酒が入っていたので、お風呂でメイクを落とすのも億劫で、服だけ着替えてベッドへ飛び込んでしまいました。それから1時間くらい眠って急に喉の渇きを覚えて目覚め、リビングに立って水を飲み、また寝室へ戻ろうとした時です。外廊下側に面した予備室のドアが開いていることに気付きました。いつもはきちんと締めている扉で、記憶は朧気ながら、帰宅して玄関に入った際にも閉じられていたはずなのです。それが何故か半開きの状態になり、室内にはぼんやりとした光が灯っていました。

「え?」

一瞬、室内の光源が何なのかを怪しみました。その部屋に天井照明以外の灯りはなく、ランプシェードの類を持ち込んだ覚えもありません。それなのに部屋の中央が薄ぼんやりとしたピンク色に輝いている……。変だとは思いましたが、その時にはとくに恐怖感などはなく、そのままズカズカと室内へ上がり込んで光源を確かめました。すると、「うっ、服が光ってる……」少し前にバーゲンセールで買った夏物のワンピースが、ハンガーに掛けられた状態で、蛍光塗料が発するような弱々しい光を放っていました。さらに不思議なことに私がそれを手に取った瞬間、服全体から放たれていた光もフーッと消えたのです。

翌日、仕事が終わっての帰り道に、そのワンピースを買ったファッションショップへ立ち寄りました。顔見知りの店員に「ごく普通の服の染料に、蛍光塗料のような成分が混ざっていることがありますか」と訊ねたところ、怪訝な顔で否定されました。さすがに「ここで買った服が夜中に光り出した」とも言い出せずそのまま帰宅したのですが、試しに予備室のドアを開いてみると、その晩も部屋の真ん中がぼんやり光っているのが見えました。光を放っていたのは前夜と同じピンク色のワンピースでした。そして、布地に手を触れたとたん、室内は元の暗がりに……。ここで初めて気味が悪いという感情が起こり、慌ててそれを衣装ケースにしまい込んだのです。

それからしばらくは何事もなく打ち過ぎたのですが、やがてワンピースの件も忘れかけていたある日、次の異変が起きました。その土曜日の休日、朝遅くに目が覚めてリビングへ移ると、テーブルの花瓶に活けた百合と薔薇の花が残らず茶色に変色していたのです。花を買って活けたのはつい前の晩。たった半日足らずで残らず立ち枯れるはずがありません。呆然としながらも、枯れた花の残骸を抜き取って捨てようとすると、初めてその部屋に入った時と同じ饐えた異臭が辺りに立ちこめました……。

その日を境に、次第に自室でリラックスできなくなってきました。リビングにいても、寝室で寝ていても、耐えず誰かの視線を感じるようになったからです。斜め上の方から見下ろしているような、得体の知れないねっとりとした眼差し。それに気づくたびに天井を見上げるという、変な癖まで付いてしまいました。もちろん見上げた先には何もなく、(私、どうかしている……)と溜息を吐くだけなのですが。

自然に足も遠のきました。自分から進んで残業を買って出たり、同僚や友人と飲み歩いたりするようになったのもこの頃からです。もはやあの部屋へ帰ること自体が苦痛でした。(やっぱり、ここ、何かあるんだ。いくら日当たりがイマイチとはいえ、2DKの間取りなのにワンルーム並の家賃なんて。連れてこられた時に気づくべきだった)そんな後悔が頭をよぎったものの、わざわざ紹介してくれた知人の手前もあり、今さら相手の不動産屋にクレームを入れるというのも躊躇われました。とにかく更新の2年後までは、何とか住み続けようと自分に言い聞かせました。しかし決定打となる出来事が起きたのは、そう決意したすぐ翌日でした。

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